昔ガラス 懐かしい「用の美」
更新日:1 日前
「トーメイ(透明)」「トーメイ(透明)」の語呂合わせから生まれた「窓ガラスの日」は10月10日。2枚のガラスを使った高機能窓ガラスに由来する記念日です。
鳳明館では、こうした高機能窓ガラスが製造される前の、昔ながらのガラスが現役です。意匠を凝らした伝統的建具の裏方として、脚光を浴びることが少ない昔ガラス。実用性を備えながらも、味わい深く多彩な昔ガラスの魅力に光をあててみます。

<視界の”ゆらぎ” ”優しさ”>
窓ガラス越しにうつる僅かに揺らぐ景色。昭和40年代から普及しはじめたフロート製法による平滑なガラスにはない味わいです。昔のガラスは厚みや表面にむらがあり、光の屈折によって、窓越しに見える景色に歪みが生じます。この視界の”ゆらぎ”は、日常では経験できない、思いがけない愉しさです。
ゆらぎを感じないまでも、ガラスを通して見える物の輪郭がやわらかくぼやけることで、目にうつる景色は優しくなり、伝統的旅館の寛ぎにつながっていると思います。
この”揺れ”や”歪み”はスマートフォンで撮ると画像補正されてしまうので、写真では残すことができませんでした。動画で捉えるのにも苦労しました。ご興味のある方は鳳明館のご滞在の際にご自身の目で、”ゆらぎ”をご覧になってはいかがでしょうか?
<曇りガラス ーすりガラス・型板ガラスー>
光を取り入れながら、程よく隠す「すりガラス」と「昭和型板ガラス」。鳳明館のあちこちにこれらの曇りガラスが使われています。
障子のような風合いのあるすりガラスは伝統的風情を、様々な模様がある型板ガラスは昭和レトロの雰囲気を醸し出しています。
<すりガラス>
洒落た実用性
表面の一部に透明を残すことで、文字や模様を表現できるのがすりガラスの特徴です。お手洗いのガラス扉がその好例。「お手洗い」という文字に加えて、飾り枠が施されているガラスもあり、お手洗いの場所を案内しつつ、さりげないお洒落さを添えています。
客間では、障子との組み合わせや、ガラスの中の四角い縁取りが、単調になりがちな格子障子にアクセントを加えています。

建具装飾の引き立て役
半透明とシンプルな形状、柔らかな光を通す性質が、格子窓の装飾を引き立てます。
とりわけ夜、窓の彫刻が影絵のように浮かび上がる趣は格別です。梅の枝の意匠は旅館らしい風情を通りにも伝えています。

奥ゆかしさ
庭を望む渡り廊下や木造部分の多くの客間に使用されているのは、上部が透明、下部がすりガラスのタイプです。外光や窓からの眺めを確保しながら、足元を品よく隠しています。 半透明から透明になる部分のグラデーションによる曖昧さに、日本らしい奥ゆかしさが表れている気がします。

<昭和レトロ 型板ガラス>
昭和レトロを代表する模様入りの型板ガラス。最近のレトロブームで復刻版が作られていますが、鳳明館には、昭和生まれの色々な種類の型板ガラスが今も扉や窓にて使われています。
ダイヤガラス
ダイヤガラスの本領を発揮しているのが、玄関看板の後ろと台町別館の応接間。宝石のような輝きが、華やかで気品ある雰囲気をつくりだしています。

モールガラスのバリエーション
型板ガラスの中で、多く使われているのが縞模様のモールガラスです。
透明なモールガラスは 眺めのよい窓用。
透明度を抑える加工がされている銀モールガラスは、ロビーに面している調理室や食器棚の扉に。裏方をほどよく隠しつつ、中の気配が伝わり、鳳明館らしい親しみやすさにつながっている気がします。

横縞のモールガラスは、和柄にもアールデコ調の窓にもよく馴染んでいます。
すりガラスなど、他の曇りガラスとも組み合わせにより窓の装飾性を高めているようです。

その他の模様
リーフ柄はお帳場に。事務室でもあるお帳場にちょっとした寛ぎを、という選択だったのでしょうか。
六角形柄の型板ガラスは眺めを楽しめない窓に。モールガラスと同様、近づいてみると
不思議な景色が広がります。
格子柄は台町別館と本館の調理室の扉に使われています。

<復刻版の型板ガラスとガラス職人さん>
昭和レトロガラスが注目をあつめているせいか、現在では復刻版が生産されています。
割れてしまった調理室扉の格子柄ガラスと同じガラスを探しましたが、見つからず、類似品で代用することになりました。
残念だったのは、復刻版ガラスの柄がシンプルで昭和ガラスに比べてレトロ感が薄かったこと。透明度が高いために調理室を隠す効果が元のガラスには及びませんでした。
その上、難儀だったのが、木製扉に型板ガラスをはめ込んでくださる職人さんが見つからなかったことです。近隣のガラス業者さんが、初めての試みとして挑戦してくださったおかげで、扉ごと交換することなく木製扉を残すことができました。
この経験を通じて、昭和型板ガラスを今も使い続けられていること、それを支える職人さんのありがたみをあらためて実感しました。

<昔ガラスの多彩な実力>
昔ながらのガラスは、柔らかな光を取り入れ、視界をほどよく遮りながら、温かく愉しい空間を支えている貴重な存在です。
ガラスは工場製品であり、住居や店舗などに広く普及していました。鳳明館に残る昔ガラスは、開業当時の昭和20年代後半から30年代初期の日常の暮らしを今に伝えています。だからこそ、その懐かしさを多くの方に感じていただけるのだと思います。
意匠を凝らした伝統的建具ほど脚光を浴びていない昔ガラス。けれども気取らない昭和の団体旅館として親しまれてきた鳳明館らしさを何よりも伝えてくれているのかもしれません。

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