鳳明館 洞口コレクション ― 床の間にひそむ自由な造形 ―
- 鳳明館 女将

- 8月20日
- 読了時間: 5分
更新日:8月25日

床の間に、ぽっかりと開いた空洞があるのをご存じですか?
この見過ごされがちな空洞こそ、鳳明館の一押しの意匠,「洞口」です。
ひょうたん形、変形四角形、そして何とも名づけようのない形まで、実にバリエーション豊かな開口部が施されています。
鳳明館は、まるで「洞口」博物館。
今回は、この「洞口(ほらぐち)」を深掘りしてみます。
そもそも、なぜ床の間に空洞が?
床の間と、その隣にある床脇(違い棚や地袋などを設けた飾りの空間)を仕切る床脇壁に設けられた開口部は、窓からの光を床脇の奥まで入れることが目的。視線の抜けをつくることで、二つの空間に一体感をもたせる効果があるとされています。
「洞口」と「狆潜り」
この開口部は2種類、「狆潜り(ちんくぐり)」と「洞口(ほらぐち)」です。

床に近い地袋より下の位置につくられるものが狆潜り、それより高い位置につくられるものが洞口。ちなみに“狆”は小型犬、“洞”は空洞。
茶室などで見られる狆潜りは四角いものが多く、円形の例もあります。
一方、鳳明館の客室で見られる開口部のほとんどが洞口です。
ところが、「洞口」で画像検索してみても、鳳明館以外の実例写真は一つも見つかりませんでした。かなり希少な設えなのかもしれません。
「職人さんによる造形」と「自然の造形」
洞口は壁にどんな輪郭を描くか―職人さんの感性、個性がダイレクトにあらわれている「職人さんによる造形」。
これに対して床柱の銘木・変木は表皮や幹という素材そのものがつくり出した「自然の造形」です。
異なる二つの造形を、一つの床の間で楽しめるのも鳳明館らしい設えの面白さです。
様々なバリエーション
バリエーションがありすぎて説明が難しい洞口。まずはざっくり分類してみました。
<形>
具象的なもの(ひょうたん、盃、壺など)
抽象的なもの(丸、四角、変形幾何学、オーガニックな形等)

<配置>
床上、地袋上、棚の上・下・上下両方、壁の真ん中。
さらには床上から天井までオープンになったものまで。どこに、どう開けるか、さまざま。

同じじゃない ひょうたん
洞口でとりわけ面白いのが、ひょうたん形です。
一口に「ひょうたん」といっても、館によって形がずいぶん違います。

本館では、くびれが緩やかな太っちょなひょうたん。
一方、台町別館では中央がきゅっと締まり、先っぽがとんがったひょうたん。
同じ縁起物であるひょうたんのモチーフを使いながら、同じ形を繰り返さない。
ここに、職人さんの拘りを感じます。
館によっても違う?

もしかすると、館それぞれの歴史や性格も反映されているかもしれません。
本館は下宿時代の面影を残してシンプルに。台町別館は当初自宅として建てられたことから縁起物を取り入れ、家長が日本酒好きからの盃形?
森川別館は変形幾何学模様が多く、本館や台町別館にあるひょうたん等の具象的な形は一つもなし。団体客向けで、本館・台町別館とも距離が離れているため、既存の意匠に縛られず、より違いを打ち出してみたのかもしれません。
タイムトラベルをして 職人さんたちに聞いてみたいです。
床柱、客室との関係
少し引いて床の間全体を眺めてみると、洞口を別の視点で楽しめます。

床柱と一体になっているような洞口、一方で、洞口のない客室もあります。
部屋の大きさや向きまで考慮して、洞口をデザインしたのでしょうか。
森川別館「朝日の間」は、床脇壁の上部が大きく開いています。これは東側からの朝日を床の間に最大限取り入れるためだったのかもしれません。
対照的に、本館西側の6畳の客室には、床の間の設えがシンプルで、洞口のない部屋が並んでいます。
床柱の形状や木肌、周囲の意匠、客間の向き、採光―。
職人さんになったつもりで、洞口のデザインの拠り所を探ってみるのも、また一興でしょう。
これは「洞口」?
床脇壁ではなく、正面の壁に空洞が設けられた客室もあります。

洞口とは少し違いますが、壁を丸く塗り回した姿は、床の間の一種である「洞床(ほらどこ)」を思わせます。
洞床は、柱や框(とこがまち)などの木材を使わず、壁土などで丸く塗り回した、洞穴のような形の床の間です。
これも洞口の仲間なのか、それとも洞床を思わせるアレンジなのか。はっきりとは分かりませんが、こんなところにも左官職人さんの技が感じられます。
獅子垣窓と庭

台町別館の大きな池庭に面した客室に、竹を数本渡した獅子垣窓のような洞口があります。
獅子垣窓は、数寄屋造りや茶室などに見られる伝統的な意匠の一つ。竹のあらい格子を床脇壁の下部にある開口部に入れたもので、もともとは鹿や猪などの侵入を防ぐために組んだ垣に由来するそうです。
もちろん都心に位置する鳳明館の庭に鹿や猪はいませんが、生き物の気配を感じる池庭に面した客間に、この意匠を取り入れたところに、職人さんの洒落っ気や機知を感じます。
宮大工さんたちの心意気
鳳明館の建築には、宮大工の棟梁が携わったと伝えられています。棟梁のもと、左官職人さんをはじめ、さまざまな職人さんたちが、それぞれの技を生かして造り上げたのでしょう。
伝統を残しながら、旅館ならではの自由な造形へ―獅子垣窓などの意匠に伝統を残しつつ、旅館の設えについては自由な取り組みを展開していったのかもしれません。
お客様に喜んでいただくことを意識しながら、職人さん自身も、クリエイティブな発想で洞口をつくることを楽しんでいたように思います。
画像検索上では見つからない洞口。他の洞口はどこ?
鳳明館の洞口について調べるため、画像検索をいろいろ試してみました。
「狆潜り」は多くの例が見つかりましたが、「洞口」という検索では、いまのところ 鳳明館以外の洞口の画像を探すことができませんでした。そういった意味では希少性が高いかもしれない、ちょっと自慢できる意匠です。
もちろん、検索で見つからないからといって、鳳明館だけのものとは言えません。
洞口が施されている旅館、料亭、客室はあると思います。他の洞口をご存じの方がいらしたら、ぜひ教えてください。まだ見ぬ洞口との出会いも楽しみです。
”空“に込められる 唯一無二の "粋”
鳳明館のさまざまな洞口にじっくり向き合っていたら、いつの間にか「洞口図鑑」のようになりました。
“洞”とは、中が空っぽのスペース。その“空”に、職人さんの“粋”・“遊び心”・“創造性” が詰まった、鳳明館一押しの“空”間です。

.png)



コメント