節分にちなみ、本年第1回目の”とりっどり鳳明館”は福を招く縁起物について。鳳明館は庭木、調度品、設えと縁起物の宝庫。中でも建具は縁起物図鑑ができるほど各種勢ぞろい。今回は見過ごしがちな縁起物も含めた大特集。縁職人さんのユーモラスな発想、お客様がまず気が付かないような拘りすぎの意匠もご紹介。

<神様・伝説由来>
縁起物なかでも別格にご利益が高そうな縁起物
鳳凰
鳳明館の屋号を象徴する縁起物。内玄関のお帳場で透かし彫り鳳凰がお客様をお出迎えしています。実は縁起物の中でも、元来天皇家の調度品に使用されていた格ある吉兆文様。ですが本館の鳳凰様はちょっとコミカルな感じ。鳳凰は3館3様のお姿。森川別館のみ、鳳凰が宿る桐の葉付き(花札の図柄)。

恵比寿様
鳳明館で注目度No.1。昨年は漫才師末広がりさん出演のCMやTVの街歩き番組もご出演。この恵比須様がおられる”えびすの間“は縁起物密度がひと際高く、ご利益の相乗効果が期待できそう。恵比寿様の窓は大黒様の打ち出小槌の形。天井には傘、隣の窓は扇か投網等を模した三角形。傘も三角形も末広がりで縁起物。恵比須様といえは鯛。鯛は只今水中?

三番叟・高砂の翁
三番叟を舞う狂言師。天下泰平・五穀豊穣を願う祝いの舞。松は能舞台装飾。窓をスライディングさせることで、能舞台で狂言師が待っているライブ感を演出。五穀豊穣といえばお米、お米といえは雀。ということで隣のお便所には雀科のエナガ、そして柄が長い柄杓。実は雀は厄をついばむ縁起物、柄杓も縁起物。この数珠つなぎの縁起物はお客様が気が付くことはほぼ無く、職人さんの拘りぬいた遊び心が詰まった設え。
松の下で熊手をもっている翁は松の精。熊手で富を集め財運と長寿の翁で縁起物。同じく能の「高砂」にでてくる姥は何故か不在。当時の職人さんは男社会だったから?

河童
川に住む河童は森川別館を代表する縁起物。水の精霊、川の神。水(時代)の流れを読みことから困難を乗り切り、水かきでお金やお客を集める等の招福万来のご利益。お帳場にて男女カップルにてお客様をお招きしています。お色気たっぷり女河童は創業当時流行していた漫画”河童天国“。笹をかつぐ男河童は芥川龍之介による河童の屏風絵からの発想。比類ない河童カップルです。
河童の隣には集めたお金を入れておく宝袋。

<植物>
松・竹・梅
「厳寒三友」(中国の古典画題)由来で松竹梅でワンセット。森川別館でも階段下に松、踊り場に竹、階段上に梅と一連の松竹梅。厳寒でも青々とている松は力強く長寿、しなやかで折れず新芽をつける竹は生命力、梅は新春と再生の象徴だとか。窓の松や小梅のモチーフのおかげで廊下に可愛らしさをプラス。

櫻
ドラマチックな枝ぶりはアートの域。花見幕の構図は花札そっくり。デザインの専門家いわく、「花見幕の輪郭は外側の手すりと同じ。同じ形状のリピートは連続性を生む効果があり、外観を室内の設えに取り込んでいる。」70年前、職人さんはデザイン学校に通っているはずもなく、感心された次第。春に一斉に花を咲かせることから、物事の始まり・繁栄を表す縁起の良い木。弥生(旧暦3月)の間のらしい設え。

<動物・魚・昆虫>
鶴・亀
言わずと知れた長寿の縁起物。廊下は鶴亀、客室は鶴松のセット。

蜘蛛の巣・蝙蝠
幸せをキャッチする蜘蛛の巣の装飾が置かれているのは掃除が行き届かずリアル蜘蛛の巣がありがちな天井近くの窓。
本館の廊下には35組あまり蝙蝠夫婦。福の漢字に似て、”幸(こう)を守り、子だくさん。台町別館の蝙蝠はお便所にあるせいか単体。

伊勢海老・鯉
海老の背中が丸い様子を“老人”にみたて長寿の象徴。実はこの設えがあるのはお便所。内で腰を屈める姿勢を海老に重ねたのか? 武運長久のご利益は伊勢海老の甲冑のような甲羅と脱皮による成長に由来しているせいか、かなり写実的彫刻。
”五月の間”にはもちろん鯉。窓の外側の蔦が繁茂する季節、水屋の鯉の装飾は水草の上を泳いでいるかの様でフレッシュなビジュアルもお楽しみ頂けます。

俵鼠・狸
害獣として嫌われ気味の鼠や狸。実は商売繁盛の縁起物。
”福住の間”は福神である大黒天の使い鼠、大黒天が乗っている福俵の設え。鼠がくわえているのは金貨。よくある俵鼠セットに加えて、福住の間には更に千両箱まで追加して商売繁盛のご利益増強。
狸は”竹伐狸“の伝承によると音の怪異を起こす化け狸。伐採した竹で作った竹馬に狸が乗って姿は職人さんオリジナル。”他(た)をぬく“ことから商売繁盛の縁起物。よく店先に置信楽焼の狸が置かれてます。台町別館ではお帳場横の控えめな場所にてご挨拶。

<その他>
入船・打ち出の小槌
“入船の間“には財宝や七福神を乗せて入る船。ちなみに出船はおめでたい門出。入船の間”はあっても、”出船の間“は無し。
大黒様がお持ちの打ち出の小槌の縁起物があるのは”文福の間“。入船の間“の背中合わせのレイアウト。

瓢箪・流水
瓢箪は末広がりの形、鈴なりの実などから開運招福、子孫繁栄の象徴。洗面所の装飾に使われていたのは、水をすくう・入れる道具として利用されていたから。創業者の出身地ふ岐阜県にある養老の滝は孝行息子が瓢箪に入れた水が酒になった養老伝説で有名。毎晩晩酌をしていた創業者と親孝行だった下戸の2代目を思い起こさせる縁起物。
同じ洗面所に施されているのが流水の縁起柄。厄を流す魔除けに火難除け。

富士山
浜から見える富士山。鶴、投網、入船などの縁起物が置かれ一枚の絵の様な図柄。

縁起物オンパレードの鳳明館。ご利益による開運パワーの強さでは全国の旅館の中でもトップクラスにランクインするのでは?「お客様の幸せを願い、縁起物を見てお目出たい気持ちになってほしい。」鳳明館の縁起物装飾には、旅館としての商売繁盛や厄除けに加えて、お客様に対するおもてなしの想いが込められているように感じます。
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