凄い木材達の宝庫 ー銘木・変木から人造・端材までー
- 鳳明館 女将
- 2024年5月11日
- 読了時間: 7分
更新日:6月8日
鳳明館はサツキ(ツツジ科)の開花がスタート。台町別館庭のつつじが見える本館の客室に施されているのがつつじの床柱。Wツツジ演出よりお客様からのリアクションが濃いのが、ツツジのイメージを覆す床柱のツツジの高さ・太さ・形状。このツツジの床柱に代表されるように、鳳明館の木材は銘木・変朴、希少性の高さ、豊富な種類など、ちょっとした木材展示場になりえるほどのラインナップ。といわけで自慢の木材達を一挙大公開。

左:本館 "桔梗の間" 床柱 (ツツジ 奄美大島)
中央:本館 "朝日の間 " 床柱 (欅 又は 楓)
右:森川別館 外玄関 柱 (白檀 ビャクダン)
下:本館 "末広の間" 落とし掛け (梅)
※よじれているのは生育過程において藤の蔓が巻き付いたことによる変形
普請道楽
そもそも鳳明館は修学旅行などが団体客主体の旅館であるのに、料亭旅館に負けないほど木材への拘りは何故? これは旅館としての鳳明館の創業者が建築に関する造詣が深く、普請道楽だったことが大きく影響。
鳳明館の創業者は無垢材等をできる限り使う等の採算度外視傾向だったとか。誰も気が付かない所までの拘りは趣味の域?と思えるほど。兄を頼って上京して旅館 旧つたやを創業した弟も”とても兄さんの真似はできない“と話していたそうです。

上:森川別館 式台 (無垢欅 ケヤキ) 樹齢80年余り無垢材
※ちなみに階段の踏板も無垢材
左下:台町別館 廊下床材(欅ケヤキ)
右下:森川別館 ”富士の間” 隠れ富士山 壁装飾(端材)と扉上開口部
※ほとんどのお客様は気が付かないミニ富士山
木材ありきの意匠
当時、本郷の旅館の経営者は大工さんと一緒に建物をつくるのが一般的。鳳明館の創業者は
改築前から戦後盛んだった銘木市で自ら買い付け、棟梁と相談して床柱や天井板から1つ1つの客間の意匠を決めていきました。一部屋ごとに進めいった為、本館の改築や別館の工事が延々と続き、なかなか完了しなかった。部材ありきの意匠は普請道楽であった創業者の
拘りが詰まっています。

台町別館 "入船の間" 上: 3枚の天井板は漢字の"川“か水流。
左下:引き扉 透かし彫りの客室名 右下:透かし彫り帆船
※ ”入船”は財宝を積んだ宝船が入港してくる様から縁起物
バラエティに富んだ銘木・変朴・人造柱
元来 旅館の床の間は格式の高い意匠と異なり装飾性が高いのが特徴。一つの床の間に色々な種類の木材が使用されています。鳳明館の中でも本館は稀少価値の高い銘木・変朴・種類ともにダントツトップ。館内全体で床の間、天井板も含めるとツツジ・椿・柘榴(ザクロ)、欅(ケヤキ)、百日紅(サルスベリ)梅、杉など20種類余り。竹だけでも数種類。仕上げも皮付き、磨き、絞り、焼き、人造(模倣)等と豊富なバリエーション。

左:本館"えびすの間" 柘榴(ザクロ)の可能性が高い 床柱
中央:本館 ロビー人造柱 槐(エンジュ)か 一位(イチイ)
※中国(周)時代、朝廷に3本の槐をが植えられ、高位の3人が槐に向かって座した
ことら立身出世の樹とされている。縁(エン)が授かる(ジュ))縁起の良い樹
※一位は創業者の郷里 岐阜県の県木。聖徳大使が持っている笏が一位。
右:本館 "弥生の間" 磨き床柱 梅の可能性が高い
竹バリエーション

左:本館 ”五月の間” 亀甲竹
※亀の甲羅に似ているので縁起物、孟宗竹の突然変異
右上:森川別館 ”弥生の間” 煤竹(すすたけ)
※古民家の囲炉裏端でいぶされることでできる模様。薄い色の部分は縄目。
囲炉裏がある家屋が稀にしかないので、貴重な素材。茶道具にも使用される。
右中:本館 ”高砂の間” 図面角竹
※角型にするために孟宗竹を筍の時から型枠に入れる。模様は土と硝酸などを混ぜた
ものを吹き付けて人為的につける。近くの竹が硝酸酸で焼けることを防ぐ為に養生 が必須の手間がかかる加工。ちなみにはっきりしない模様があるのは自然の紋竹。
左上:森川別館 洗面台上 うねうね竹
稀少な天井木材ー屋久杉の天井板
3館の中で一番希少価値が高い天井板は伐採禁止となっている屋久杉の可能性が高い。
地味な見た目で気が付く人は皆無なのでは? 霧島杉と見分けがつかないが、屋久杉だとすると、正面玄関 真上の客間であり、東向き日出ずる ”あけぼのの間”だから特別に価値のある木材を選んだのかもしれない。

上:本館 "あけぼのの間" 屋久杉(または霧島杉)天井板
※玄関 真上の部屋なので、高価な屋久杉を使用した可能性がある
※笹杢(笹の葉が重なったみたいにギザギザ模様の杢目)が屋久杉や霧島杉。
秋田杉には無い特徴。
下:本館 "あけぼのの間" 外観
希少な天井木材ー赤松の棟木
明治時代に西洋から梱包材が輸入された際に松くい虫(マツ材線虫病)が入り込み、国内で被害が拡大。良質な赤松は希少となっている。

SDG‘s リサイクル材や端材だからこその面白さ
銘木では出せない意匠。
鳳明館全体であちこちに使用されているのが水車板。当時電力発電が普及し、不要となった安価な水車板が出回っていたのでしょう。実は知人が住む昭和の家でも壁装飾として使用。鳳明館は昭和30年代SDG'sインテリア伝えていることになります。
水車板や端材によるスタイリッシュなデザインが見られるのが森川別館。3館目の建築で、値上がりや品薄等により銘木の使用が厳しくなった分、デザインでカバーしようと創業者や職人さんが頑張って工夫したのでは?

Vの字の切込みが入っている板が水車板
上:森川別館 "末広の間" 扇の飾り天井 ※水車板の弧が扇にマッチ
下:森川別館 “入船の間” 船の舳先部分 ※水車板→水→船という発想?

森川別館 てすり 何種類もの木材(端材)だからこそのユニークなデザイン
※平たいのはシャレ板(洒落板)
木材の共同購入
文京区本郷及び周辺の経営者の半数以上は岐阜県出身。地縁・血縁による相互扶助が本郷下宿街・旅館街形成の原動力。資金援助に加えて、木材も共同購入。壁や床の木板は共同購入によるものでしょう。

左上:本館 廊下 壁装飾(貝塚息吹 桧科) 左下:本館 朝日の間 床の間
右:台町別館 床装飾 欅(けやき)
木材が伝える鳳明館らしさ 真摯さと遊び心
構造材にもこだわった創業者。グレードの高い良質の木材を棟木等に使用していると森川別館の建築調査をされた法政大学高村雅彦教授が発見。東日本大震災でもびくともしなかった築70年近くの森川別館。創業者が選んだ頑強な木材が今も鳳明館を守ってくれています。
創業者は誠実な人柄で人望が厚く、生涯を通じて贅沢と無縁の質素倹約家。それでいて、普請道楽といわれるほど旅館建築に費用と労力を費やした根底には、個人的趣味・自己満足に加えて、お客様に安心、かつ楽しい宿泊を提供できる旅館づくりにむける本気さゆえと感じずにはいられません。
色々な木材をじっくり見れば見るほど、真摯さと遊び心、この2つが古き良き旅館としての鳳明館の旅館建築たらしめる屋台骨となっているという想いが深まっています。
※木材の名称に関しては当時の記録がありません。本館が平成12年(2000年)に東京都の旅館で一番最初の登録有形文化財になった際に、先代本館店長が木場の木材専門店の方に実物をご覧頂き作成した資料からの情報です。木材の種類を断定できないことに対して、
ご理解ください。

追記:
2025年4月18日 梶本銘木店を来訪しご教示頂いた情報をもとに、一部内容を変更いたしました。
広大な展示場にて各種木材を見学させて頂き、鳳明館の銘木・変朴の種類を教えて頂く事のみならず、変朴が自然に形成される過程、職人による加工の技等、多岐に渡り学ばせて頂きました。
圧倒されるほどの銘木に囲まれながら、ご案内頂いた伊部貴行さんによる色々なトピックを織り込んだ丁寧な説明や笑顔に接し、木材に対する深い愛着を感じた次第です。伊部さんのおかげで、木材ありきで設えを考えたという創業者の想いに少し寄り添えた気がしました。
ご協力頂いた伊部さんをはじめとし梶本銘木店さんの皆様に深く感謝申しあげます。
株式会社 梶本銘木店:https://kirakuan.com/


昨日(5月24日)、17時からお世話になった五人組の一人です。読み応えのある記事でした。木材を眺めるためだけに再訪したくなりました。